Work
特集 Work vol.17
誰もが同じ立場で農作業を楽しむ、安らげる地域の居場所
社会福祉法人光友会神奈川ワークショップ

合言葉は「仲間をつくり、植物と接して、幸せになろう」
神奈川県が2024年度から進めている「都市型ユニバーサル農園」。そのモデル園が藤沢市獺郷にあります。世代や障がいの有無などに関わらず誰でも参加できるこの農園を手掛けるのは、田畑や葡萄のほ場がある「かわうそ農園」を運営し、障がい者を交えた農業実績を持つ社会福祉法人光友会神奈川ワークショップです。週2回の活動日には、ユニバーサル農園の参加者と神奈川ワークショップの利用者、さらには農園の効果検証を行う東海大学の学生も加わり、農作業をすすめています。合言葉は「仲間をつくり、植物と接して、幸せになろう」。その活動や思いを取材しました。
週2日、知的障害のある利用者とともに緩やかに活動
ユニバーサル農園が開園したのは2024年10月。事前に参加を呼びかけると引きこもりなどから社会参加を目指している30~60代の3人が集まりました。障がい者に就労機会や必要な訓練を提供する神奈川ワークショップでは、施設近隣の農地を譲り受けたことをきっかけに、15年ほど前から製パンや印刷などさまざまある作業の1つとして農作業をスタート。現在は知的障がいを持つ8人が就労しています。ユニバーサル農園の参加者は毎週火・木曜にその活動に加わり、ともに野菜作りを楽しみます。活動時間は午前10時から午後3時ですが、いつ来ていつ帰っても良い緩やかな雰囲気です。

開園から3カ月―。様子を見守ってきた同法人業務執行理事の一杉好一さんは「参加者は天候の影響で体調が変わるようなこともあって出席は安定しませんが、集中力が高く、野菜の葉についた虫を取り除くなどの黙々と行う作業にとても向いています」と話します。知的障がいのある利用者が参加者に作業を教える場面もみられ、良い交流ができていると言います。

傍らで作業する仲間とのおしゃべりも自然に
ホウレンソウ、ブロッコリー、キャベツにニンジン…開園時に撒いた種が順調に育ち、現在は収穫時期を迎えています。野菜はすべて無農薬栽培です。傷んだ葉を取り除きながら黙々とホウレンソウの収穫をしている参加者に「正月にお餅何個食べた?」と利用者が話しかけます。「お雑煮に入れて10個も食べちゃったよ」と答える参加者。手を動かしながら傍で作業する仲間と自然に会話が生まれ、ともに笑みがこぼれます。

これまでは農家出身の職員らが参加して作業してきましたが、ユニバーサル農園の開設にあたり、県の農業者育成機関である「かながわ農業アカデミー」の元講師をメンバーに迎えて技術指導を受けることにしました。その結果、野菜の品質と収穫量が驚くほど向上し、保管庫が必要になるほどに。より作業がしやすいよう、ビニールハウスも設置しました。「ユニバーサル農園のおかげで技術が向上して一般の農家と遜色ない出来になりました。本当にすごいの」と一杉さんも目を細めます。
収穫した野菜は利用者と参加者らがすぐに泥を落とし、袋詰めをして商品に。光友会の施設内や藤沢市内のマルシェ、福祉イベントなどで販売するとすぐに売り切れる人気の品です。


東海大生も毎週参加。「対等な関係で支え合うことを実感」
ユニバ―サル農園には開園時から東海大学も参画しています。その目的は、この農園に参加した障がい者や引きこもりの人たちの精神状態や行動がどう変わっていくかを分析し、効果を検証することです。数カ月ごとに参加者へ睡眠時間や現状のストレス度、日常生活の送り方などのアンケートを取り、その変化を数値化して分析していきます。県は可視化されたその結果を農福連携への新規参入促進のために活用したい考えです。

また、健康学部健康マネジメント学科の学生らも開園時から毎週活動に参加しています。取材に伺った日に来園していたのは3年生の3人。参加しての感想を尋ねると、関口栄心さんは「農作業をする機会がないので、初めは鍬を持って耕すだけでも大変でしたし、種を撒く時も配置に気を付ける必要があることなどを知りました。障がいのある方たちが、自分ができないことをやっていてリスペクトできました」。社会福祉士等の資格取得を目指している山口あかねさんは「支援者としての勉強をしていたので、障がい者を支援される側として見ていたことに気が付きました。障がいのある人はそれぞれの場で活動していて、支援者はあくまでも見守る立場。支えて支えられてではなく、対等な関係で支え合って一緒に作業をするということを実感できました」と語ってくれました。「積極的に障がい者と関わる体験が大事だと感じたので、身近な人にこういう場があることを伝えていきたい」と言います。井上大志さんは「これから社会に出て障がい者と一緒に働くことがあったら、障がいをマイナスではなく、ひとつの個性や強みと捉えて接することが必要だと感じました」と話していました。3人はユニバーサル農園での経験などをまとめて卒業論文として発表する予定です。そんな学生たちの姿に一杉さんも「普段一緒にいない人が参加して活動をともにすることはお互いを理解することにつながります。ユニバーサル農園を通して、若い人たちとこうして繋がれたことは本当にありがたいです」と感謝していました。

必要な人に情報を届け、豊かな地域づくりにつなげたい
ユニバーサル農園の目的は、社会参加に課題のある人たちにとっても安心していられる居心地の良い居場所として地域に存在することです。事業所で就労して軽作業などをする場合、生産量や品質の向上も意識するため、競争心のようなものが生まれることもあるそうですが、ユニバーサル農園は広い敷地の中で分散し、あまり干渉し合わずにそれぞれのペースでゆるやかに作業ができます。また四季を感じ、収穫の喜びも味わえます。
光友会神奈川ワークショップでは近隣の耕作放棄地なども借りて徐々に農地を増やしており、所有面積は現在3,000坪ほど。今ユニバーサル農園として野菜づくりをしている畑はその一部です。他にも葡萄のほ場や米作りを体験できる水田もあるため、「いずれはそちらにも携わってもらいたいとです」と一杉さんは話します。

順調に見える一方で難しさと大切さを感じているのが情報発信です。ホームページ上に掲載するだけでは必要な人に届きにくいため、周辺自治体の福祉関連部署を訪れたり、地域のケースワーカーや民生委員児童委員に話をしたりして、引きこもりの人がいれば情報を届けてもらえるように伝えていると言います。また、地域の子ども食堂との連携も模索。視覚障がい者の就労先の選択肢が少ないことにも着目し、選択肢の幅を広げるきっかけになればと、盲学校へのアプローチも検討しています。地域に暮らす人たちが同じ立場で植物を通した活動を一緒に楽しみ、豊かな地域をつくり出していくことを目指す「ユニバーサル農園」。今後の広がりに期待が膨らみます。
- 取材先:社会福祉法人光友会神奈川ワークショップ
東海大学健康学部健康マネジメント学科池内眞弓ゼミ生