Work
特集 Work vol.16
〝地元に貢献、ともに生きる地域の実現へ向けて〟
田園調布学園大学 和ゼミ 谷口賢史さん
津久井やまゆり園の利用者と地域の交流を復活させたい
相模原市緑区千木良にある津久井やまゆり園。この地区を地元にもつ大学生の谷口賢史さんは、小学校のころからごく自然にボランティアに通い、園との交流もあったそうです。2016年の事件以降、地域と園とのつながりが弱くなっていると感じていた谷口さんは、生まれ育った地域の、人と人の繋がりを取り戻したい。地元に貢献したいという思いで、小さくても未来への大きな歩みを一歩ずつ進めていました。その取り組みと地元を愛する思いを取材しました。
空気の澄んだ晩秋の日曜日、利用者とともに育てた大豆を収穫
11月23日、津久井やまゆり園内の一角で育てられていた津久井在来大豆の収穫が行われました。今年初夏に蒔かれた大豆は、猛暑を乗り越え、この日ほどよく乾燥し、「大豆」として収穫するのに最適な状況になっていました。園の利用者も収穫に参加しました。
この大豆の育成は地元在住の大学生・谷口さんの思いがカタチになった一歩でもあります。大豆の育成には「相模湖大豆の会」の代表・長谷川兌(とおる)さんが全面協力、種まきから収穫までのサポートをしてくれています。かながわブランドにも登録されている「津久井在来大豆」は古くからここ千木良地区で栽培されてきたうまみの強い大豆です。
この大豆を通して〝ともに生きる〟地域の再構築を図りたいと谷口さんは考えています。津久井やまゆり園の職員の大崎務さんは「地元ゆかりの農作物・津久井在来大豆を通して地域貢献したいという思いに共感しました。前向きに取り組んでいる谷口さんの姿勢やその人柄に施設もひっぱられています。いろいろな方々の縁が繋がっていると感じています」と話してくれました。
生まれ育った地域に貢献したい・・・その思いが取り組みのきっかけ
谷口さんが、津久井やまゆり園と地域を繋ぐ活動に本格的にとりくみはじめたのは、大学2年生の冬からだそうです。津久井やまゆり園では小学生のころからゴミ拾いなどで通っていました。「中学生のころにはボランティアをさせていただいていました。そのころから福祉に興味をもっていました」という谷口さん。そして、介護福祉士の資格がとれる高校に進学。その後はもっと広く福祉を学ぶために川崎市にある田園調布学園大学に進学しました。「すぐに現場へ行く人生経験もなかったし、子どものころから通っていた津久井やまゆり園と地域を繋げることを勉強したいと思ったんです。施設が地域に開いていくことも学びたいと思いました」。
大学へ進学し、運命の出会いともいえる同大学人間福祉学部社会福祉学科の和(かのう)秀俊教授の「地域福祉論」を受講。「和先生が実際に地域へ出て学ぶという授業だったので、その授業のおかげで、自分が進みたい、カタチにしたいもののイメージができました」と話してくれました。
農福連携による共に生きる地域の再構築を提案
(谷口さんが応募した提案書のページより抜粋掲載)
和教授の指導のもと、ゼミの仲間たちと取り組みを進めてきた谷口さんは2024年夏、この取り組みをまとめ、神奈川県の※「子ども・若者みらい提案▶実現プロジェクト」に応募、若者部門の優秀賞に選ばれました。現在、実現に向けて調整中です。今回、これまでの谷口さんの取組の内容の一部をご紹介します。
※「こども・若者みらい提案実現プロジェクト」とは?
県では、子どもの意見を県の施策に直接反映させるため、新たな取組として子ども・若者が提案者となり、子ども・若者の皆さんの目線で考えた事業提案を募集し、選出されたものについて県が事業化する取組を行っています。事業化にあたっては、提案者も一緒に参加していただきます。
千木良地区で栽培されている津久井在来大豆やブルーベリーに注目
3年生になり、和ゼミに入った谷口さんは、千木良地区で古くから栽培されている津久井在来大豆を大学の近くの生活支援介護施設カフェ・タイムで障がい者と育て、枝豆づくりに挑戦します。その後はその枝豆を活用したスイーツづくりのイベントも実施しました。
そしていよいよ今年春、4年生となり、津久井やまゆり園で一緒に大豆を育てていくことになったそうです。
地元の農園では園の利用者とともにブルーベリーを収穫
地元の店舗の協力で収穫したブルーベリーで焼き菓子づくり
大豆の栽培以外にも、地域の農園abio farm(アビオファーム)へ出かけ、ファームの遠藤篤法さんの協力のもと、園の利用者とともにブルーベリー積んだり、相模原の洋菓子店C“est la saison(セラセゾン)の清水康生シェフの協力のもと、一緒に焼き菓子を作って、地域の納涼祭や学園祭に出品するなど、この1年で活動の範囲が大きく広がっていったのです。
このほかにも、地域の人々やこの取り組みに賛同する多くの協力者が連携してくれています。
地元=千木良地区の農作物と地域を繋ぐ「農福連携」による共に生きる地域の実現へ歩みを進めているのです。
そして、これからも・・・
「自分や大学だけでやれることには限界があることもわかっています。これからも地域のみなさんや協力してくださる方々と連携しながら、進んでいきたいと考えています。多くの人と連携することで、いろんな人の夢に近づいていける園だったり、地域をめざしています」と谷口さん。
津久井やまゆり園が特別な場所ではない、地域の中にもともとある場所で、悲しいことがあったけれど、かつて地域が繋がっていたときのように関係性を再構築したいという思いが、自然に伝わってきます。
谷口さんらの卒業後もプロジェクトチームを作り、活動をサポートしたいという和教授。「これからも自分の地元を未来へ繋げる人材を大学から輩出していきたい」と話してくれました。
・谷口さんは「地域の連携先ともちょっとずつ、ちょっとずつ繋がりも広がっている。〝地元〟が自分の核にあるので、これからも地域にこだわって社会人としてやっていきたい」と展望を語りました。〝地域とともに生きる福祉〟を進めているこの活動に注目が集まります。
- 取材先:田園調布学園大学4年 和ゼミ 谷口賢史さん
田園調布学園大学 和秀俊教授 - ●田園調布学園大学ホームページ● https://www.dcu.ac.jp/
津久井やまゆり園 https://tsukui.kyoudoukai.jp/