Life

特集 Life vol.11

快晴の秋の一日、辻堂海浜公園で
「インクルーシブ移動遊園地(ともいきゆうえんち)」

神奈川県 、神奈川県公園協会

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インクルーシブ遊園地ってどういう意味?

10月13日の日曜日、藤沢市の海岸沿いにある辻堂海浜公園で、神奈川県と神奈川県公園協会の共催イベント「インクルーシブ移動遊園地」が開かれ、約4000人の来場者が集うなど大盛況でした。当日は共催の両者のほか、特定非営利活動法人laule'a(ラウレア)、一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)、社会福祉法人アール・ド・ヴィーヴルの3団体が協力しました。

インクルーシブとは、「包括的、すべてを包み込む」といった意味合いの言葉です。神奈川県では、健常者の方々、障がいのある方々等、すべての人々が分けへだてなく、その人らしく暮らしていける共生社会を目指した「ともに生きる社会かながわ憲章」を掲げています。今回のインクルーシブ遊園地は、様々な人々が一緒に遊ぶ経験を通して、「ともに生きる」を体感する機会の一環になることを期待して、県内で初めて開催されました。

角のない丸い遊具、補助輪付きのオートバイ体験、アートの実践など盛りだくさん!

芝生広場の会場には、誰もが一緒になって遊ぶことができる様々な遊具(インクルーシブ遊具)が置かれました。交通公園内にはハンディキャップのある方が「オートバイに乗る」ことを実現できる体験イベントも開かれました。

ほかにも、地面に大きな白い紙を置き、思い思いの発想で、自由に絵を描くアート体験スペースなど、誰もが楽しめる様々なイベントが行われました。

大きな白い紙に絵を描く参加者
大きな白い紙に絵を描く参加者

インクルーシブ遊具の形状は、一般の遊具と少し異なります。ブランコは座面の角が丸く広く、緩やかに凹んだ長方形のカゴのような形です。シーソーも両サイドで寝そべって遊べるような独特の形で、フレームは曲線で形作られています。地面でくるくる回る、お椀のような遊具もあり、子どもたちは自由な発想で工夫を凝らして遊ぶ姿が印象的でした。

各イベント会場でスタンプを集めるとプレゼントと交換できる「スタンプラリー」も実施。用意した1000枚のカードが途中でなくなってしまい、急きょ増刷するという盛況ならではの嬉しい誤算もありました。

設置された遊具で遊ぶこどもたち
設置された遊具で遊ぶこどもたち

共生社会を子どもたちに体験してもらいたい

イベントを担当した神奈川県福祉子どもみらい局共生推進本部室の松本勇哉さんに、開催の狙い等についてお話を伺いました(聞き手・株式会社タウンニュース社)

――このインクルーシブ遊園地の狙いについて聞かせてください

松本:神奈川県は、平成28年に発生した「津久井やまゆり園」の事件をきっかけに、「ともに生きる社会かながわ憲章」を策定しました。この憲章は誰もがその人らしく暮らすことのできる共生社会をめざす憲章です。ただ、憲章の理念を広め、知ってもらうだけではなく、並行して、こうした共生社会を体感してもらうことも必要だと考えています。今回の遊園地は、実際にこの理念をみなさんに体感してもらうための活動の一つとして企画しました。設置したインクルーシブ遊具は、障がい者だけのものではなく、健常者も障がい者も一緒に安全に遊べる遊具です。簡易的ではありますが、こうした遊具を実際に体験してもらいたいと考え、実施しました。

――いろいろなタイプの活動が集まっているのですね

松本:今回は3つの団体にご協力をお願いしています。

特定非営利活動法人laule'a(ラウレア)は、藤沢市で医療的ケア児や重症心身障害児等を対象とした遊びの場の提供を中心に活動しています。今回インクルーシブ遊具を用意していただきました。一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)は、相模原市を拠点に特別なバイクを用意して障がいがある方の「オートバイに乗る」という夢をサポートする活動をしている団体です。社会福祉法人アール・ド・ヴィーヴルは、小田原市で障がい者アートのアトリエを運営されていて、障がい者の「やってみたい」という気持ちを後押しする活動を行っています。それぞれの団体は、障がいのある方たちが、社会の中で気兼ねせずに生きることのできる社会のために活動をしています。

遊具は子どもたちに向け、バイクはどちらかというと大人の方向け、アートはすべての人に向けて用意しました。これらの体験を通して、とくに若いうちから共生社会、インクルーシブというものを体験してもらいたいと考えました。お子さんと、ご両親にも一緒に体験してもらうことで、共生社会を考えるきっかけになれば嬉しいです。

共通するのは「ともに生きる」が当たり前になること

今回、ご協力いただいた3団体の代表者にイベントに参加して感じたこと、普段の活動で感じること等のお話を伺いました。

●特定非営利活動法人laule'a(ラウレア) 副理事長 大郷和成さん

大郷和成さん

今回は規模が大きいので、いろんな遊具を出したほうがいいかなと思い、アネビーというインクルーシブ遊具を輸入販売している会社に声をかけて一緒に入ってもらっています。これほど大きなイベントで遊具が揃っているのはあまりないですね。

僕らが言っているインクルーシブは特別なものではなくて、同じ遊具で誰もが一緒に遊べるように工夫することです。そのサポートをしているのが、laule'a(ラウレア)という法人です。遊ぶものは同じだけどその子の障がいの特性によって遊び方がちょっと変わってくる。それらを含めてインクルーシブと言っています。

重度と言われる障がいのある子どもでも寝そべって遊んだりできるとか、元気な子は何人かでいろんな遊び方ができるのがインクルーシブ遊具です。今日、見ていると、寝て遊ぶ重度の車椅子の子もいれば、次に並んでいる子は兄弟で遊ぶとか…それがめざしていた場づくりになっていると感じます。

ただ、遊具などのモノだけがあってもなかなか一緒にはできないので、こういうイベントで僕らみたいなスタッフがサポートに入ると、うまく形になるのかなと思っています。

●一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト) 代表理事 青木治親さん

青木治親さん

我々、SSP(サイドスタンドプロジェクト)は、活動を始めて5年になります。もともと障がい者をメインにオートバイに乗ってもらい、夢を与えるというような活動をしています。

障がいのある方は、いろいろなことを諦めている方も多いと感じています。ましてバイクに乗るなんて絶対に無理でしょ、と思っている。でも、我々が活動を通してオートバイに乗れる楽しさを伝えたり、その人が趣味を見つけることでその人の生きがいに変わってくる。

障がい者だからこれはダメ、あれはダメではなくて、一緒に楽しんで活動し、趣味を持っていこうというのことを趣旨に活動しています。今回、参加する機会をいただいて、こうして(様々な団体と)みんなで行うというのは初めての試みなのです。いつもの活動ではもっと少ない人数なので、多くの人が来てくれて良かったと感じています。

無理だよと思っていることができて、どんどん新しいことに興味が湧いてきて、家から出るきっかけになってくれれば、我々が活動している意義がありますね。

●社会福祉法人アール・ド・ヴィーヴル 理事長/施設長 萩原美由紀さん

萩原美由紀さん

私たちは、神奈川県が掲げる「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念に共感し、県内の色々なところでワークショップを開催したり、創作の機会を提供するために特別支援学校を訪れたり、展覧会場で障がい者アートの展示をしたりしています。

今回のイベントでは、私たちとともに活動する障がい者アートの作家さんたちが6人来ています。障がいのある作家たちと、一般の方がともにアートに触れることは、インクルーシブな環境が体験できます。屋外に広げた大きな白い画用紙に作家さんたちと一般の方たちがコラボをしているのですけれど、とても素敵な空間になりました。

先ほど、近隣の特別支援学校の車椅子に乗っている生徒さんがお見えになりました。車椅子から降りられないので最初は遠慮されていたのですけれど、声をかけて車椅子の上からでも描けますよ、とお誘いをしたらやってくれました。棒の先にペンをつけて描くのです。このやり方だといろいろなところにペンが届く。それで色が混じっていくことで、きれいな作品ができあがっていく。こんなふうに誰でも楽しめるのが、アートのいいところですね。

子どもたちの歓声で溢れた会場

初めて開催されたインクルーシブ移動遊園地は、珍しい遊具やイベントを目にした子どもたちが、自由に好きなように遊ぶ姿が印象的でした。このイベントを通して、障がいの有る無しに関わらず、様々な人々が一緒に遊んだり、一緒に作り上げる体験が成されました。

県によれば、同様のイベントを今後も行っていくそうです。共生社会を体験し、それが当たり前になる社会の実現をめざすこの取組。次はあなたの街でインクルーシブ遊園地が開催されるかもしれません。

取材先:神奈川県福祉子どもみらい局福祉部共生推進本部室
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