Life
特集 Life vol.1
中途障がいと地域をつなぐ
とつかわかば
中途障害者地域活動センターとつかわかば(横浜市戸塚区)
中途障がいと地域をつなぐ とつかわかば
中途障がい者という言葉を知っていますか? 人生の途中で病気や事故等で後天的に障がい者となった人たち指す言葉です。中途障害者地域活動センターとつかわかばでは、主に脳血管疾患等の中途障がい者が軽作業や地域交流を通し、自立した生活が出来るようにサポートをしています。2019年11月には戸塚区にある小学校とボッチャ体験会を開催し、地域と交流を育んでいます。
「中途障がい」は誰でもなりえる
中途障がいには様々なものがあります。病気や事故による四肢や脊椎の損傷、言語や記憶の障がい等、後天的に心身に障がいが生じる可能性は誰にでもあります。
発症年齢も様々です。例えば働き盛りの一家の大黒柱が中途障がい者になると、これまでの仕事を辞めざるをえなくなる場合もあり、家族の介護負担や経済的に困難な状況に立たされることもあります。
中途障害者地域活動センターが主に支援しているのは、脳卒中等の脳血管疾患や難病、交通事故、転倒等、脳に関する疾患・損傷の後遺症で障がいが生じた方々です。その症状は、片麻痺、言語障がい、高次脳機能障がい(記憶障がい・注意障がい・遂行機能障がい等)等、多岐にわたります。
中途障害者地域活動センターは横浜市18区で整備されており、横浜市戸塚区上倉田町にある中途障害者地域活動センターとつかわかばでも中途障がい者の支援を行っています。とつかわかばは、病院や区役所等の紹介により集まった40代から60代までの27人が所属しており、彼らが自立して生活できるように支援しています。
共に歩んでいける場になることを目指して
取材日は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、密閉・密集・密接を避け、午前と午後の2部制で活動が行われていました。
午前は8人が参加。午前10時から朝礼が始まり、利用者自らが出席を取り、手足や顔の表情筋を動かす体操を行うと、各自の作業に入ります。クラフトテープを編んだカゴや靴下のハギレを使った手編みマット等を各自のペースに合わせて製作していました。
障がいはある日、突然に
クラフトテープのカゴを編んでいた60代女性は、言葉が出にくくなる言語障がいがあります。原因は2回の脳梗塞。2回目の症状は重く、歩行困難から車いす生活も見込まれましたが、懸命にリハビリをすることで、今は歩くことが出来るようになりました。以前は友人と会話することが好きな性格でしたが、発症後から会話も少なくなり、ふさぎ込みがちだったと言います。
とつかわかばに通うようになってからは、会話に参加はしなくても利用者がグループで話をしている様子を見聞きしたり、カゴを編んだり、職員と会話をする中で、次第に元気を取り戻しましたと話してくれました。
靴下のハギレを使った手編みマットを製作していた60代男性は、朗らかに自分の症状を教えてくれました。2014年のある日、戸塚駅東口の階段を降りようとした時に足を滑らせて落下。一命はとりとめたものの、頭を強く打ちました。病名は急性硬膜下血腫。「目が覚めたら、右足がまるで15本くらい生えているんじゃないかと思うくらい、動かしにくかった」と話します。懸命にリハビリを続け、「今は右足の重さは2本分くらいになったかな」とのことです。
ボッチャを通じて地域交流
とつかわかばは、こうした中途障がい者と地域をつなぐ拠点でもあります。
毎年6月には「わかばまつり」を開催しています。利用者の作品の販売やゲーム等、盛りだくさんの内容で、例年多くの地域の方々が訪れ、賑わいを見せています。このイベントの周知のために、周辺自治会の掲示板にポスターを掲示する等、地域の方々も協力しています。(今年は新型コロナウイルス感染症の影響により、開催されませんでした)
また、2019年には、とつかわかばの利用者が矢部小学校と平戸台小学校のもとを訪れ、ボッチャ体験会を実施しました。戸塚スポーツセンターが「子どもたちに、障がいのある方と一緒にスポーツを楽しむ機会を作れないか」という小学校からの相談に応えて企画したもので、ボッチャで地域ととつかわかばの縁結びを目指す、有意義なイベントとなりました。
この体験会には先程の60代男性も参加し、小学生と白熱した戦いを見せました。男性は、「自分の年齢からすると孫みたいな子どもたちから、たくさんの元気をもらえた。教えに行くつもりが、小学生は覚えるのが早くて、負かされてしまった」と目を細めていました。
ボッチャは、ボールを投げたり転がしたりしながら的に近づける競技の姿から「地上のカーリング」とも呼ばれ、東京パラリンピックでも競技種目として登録されています。
知ってほしい中途障がいとヘルプマーク
「まだまだ中途障がい、特に高次脳機能障がいについての理解が深まっていない」と同センターの田所靖子所長。「個人の性格の上にそれぞれの障がいが重なることで、支援の組み合わせは無数にも近い。私たち職員は、彼らの特性を把握しながら、個別に合った支援を提供していかなければなりません」と言葉を続け、「片麻痺等の目に見える障がい以外にも、高次脳機能障がい等の目に見えない障がいがあることを皆さんに知っていただきたいです。ヘルプマークは、このような方々のマークでもあります」と呼び掛けていました。
- 取材先:NPO法人中途障害者地域活動センターとつかわかば
- 横浜市戸塚区上倉田町449番地
- 脳血管疾患等により、後天的に障がいが生じた方々が軽作業・学習・地域交流等を通じて、地域社会で自立して生活することを目指して活動している。