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特集 Hit vol.3

夢と笑顔を与える
本気のスイーツづくり

一般社団法人AOH(ショコラボ)
株式会社ショコラボ(ショコラ房)

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夢と笑顔を与える
本気のスイーツづくり

2012年、障害福祉サービス事業所運営として、全国で初めてチョコレート工房を開所した一般社団法人AOH(エーオーエイチ)。開所前、周囲からは「(前例がないからリスクが高く)絶対にやめた方が良い」とまで言われた事業は、現在数百社にわたり関わりのある企業があり、全国で販売されるヒット商品を生み出しています。今回は、社員と利用者が〝常に本気〟となって切り拓いてきたスイーツづくりに迫ります。

全国初!障害福祉サービス事業所運営のチョコレート工房

このままじゃ人生終われない――。同法人を立ち上げた伊藤紀幸会長がそう思ったのは、長男が通っていた特別支援学校で「障がい者の就職は難しい状況です。できたとしても月給3000円程度でしょう」と伝えられたとき。障がい者雇用の向上を目指して、脱サラ後に不動産会社を設立し、開業資金を貯めました。事業開業に向けて何をすべきかを検討していた際、妻から「パパの好きなチョコレート屋さんにしたら」と言われたのが、事業選びの決め手となり、夫婦そろって障害福祉サービス事業所運営のチョコレート工房設立へと動き出しました。

〝全国初〟ということもあり、周囲からは厳しい声もありましたが、「自分で決めた道を進む」という内から湧き上がってくる思いから、その足を止めることはありませんでした。不動産会社を設立して10年後、障がい者の自立と社会参加、そして工賃アップを目指した障害福祉サービス事業所「CHOCOLABO(ショコラボ)」を開所。その名には、フランス語でチョコを意味する「ショコラ」と、障がい者と健常者が「コラボレーションする」という意味が込められています。

障がい者と健常者が協同する「ショコラボ」
障がい者と健常者が協同する「ショコラボ」

ヒット商品の始まりは「火事場のバカヂカラ」から

2012年の開所当初は当然、利用者はおらず、厳しい経営状況が続きました。そんな折に、不動産会社経営の繋がりをたぐり「中華街で販売してみてもいいよ」というご了解を受け挑戦したものの、この時は閑古鳥が鳴く結果に終わりました。「2週間後もどうか」という誘いを受け、「絶対に失敗したくない」と商品開発に励み、〝中華街だから中国、だからパンダ〟という形で「ショコラdeパンダ」が誕生。単純明快な発想で生まれた商品が中華街の観光客にハマり、今では全国に広がる大ヒット商品へと成長しました。伊藤会長は「後がない状況で〝火事場のバカヂカラ〟から生まれた商品。不思議なことに、パッケージに笹色のパッキンを入れたら、さらに売れたりして面白かった」と当時を振り返ります。

現在の商品は、ドライフルーツチョコレートや焼き菓子の詰め合わせなど種類は多岐にわたり、横浜市のふるさと納税の返礼品にもなっています。取引先は、大手百貨店や有名ホテルなど数百社にのぼり、年間個包装生産数は約50万個にもおよびます。うち32万個が、11月~3月の繁忙期に手作りで作られています。

大ヒットした「ショコラdeパンダ」
大ヒットした「ショコラdeパンダ」

本気で考えるから生まれる 工夫あふれる製造工程

開所当初は障がい者が働く福祉のチョコレート専門工房は存在しませんでした。ゆえに、その製造工程は未知の領域。スタッフは試行錯誤を繰り返しながら、〝どうしたら出来るのか〟を常に念頭に置きながら製造工程を確立していきました。人員体制やレシピ、作業工程などすべての生産体制に工夫が凝らされていますが、その一つの例が「治具(じぐ)」です。一般的に治具は、機械メーカーなどで部品や工具の作業位置を指示・誘導するためのものですが、ショコラボでは数を数えるのが苦手な利用者に対して商品個数を判別できる道具であったり、均等サイズに素材を切り分ける道具などとして用いています。

これを考えたのはスタッフのパートさん。当初は、数を数えるのが苦手な利用者に商品を数える作業にあたってもらうこと自体をやめた方が良いのではないかという意見もありましたが、〝どうしたら出来るのか〟を追求し、辿りついたのがFAXの裏紙に線を描き、表を作ってそこにモノを置くだけで個数がわかる、これがショコラボの治具の始まりです。伊藤会長は「私自身も数を数えるのが苦手な人にその作業にあたってもらうのは合理的ではないと思った一人。〝どうしたら出来るのか〟を本気になって考えてくれたパートさんには敬意と感謝しかありません。初心にかえる機会をいただきました」と嬉しそうに話していました。

切り分けや並べるだけで数がわかる「治具(じぐ)」
切り分けや並べるだけで数がわかる「治具」

自立性を育てる「内発的動機付け」

ショコラボは新型コロナウイルス感染症の影響を受け、利用者のことを考慮し、緊急事態宣言発令前の4月上旬から解除後の6月中旬まで休業していました。この間、スタッフは毎日のように、自らで考えたり調べたりした生活の心得や豆知識などを通信誌として配信したり、動画サイト「Youtube」に投稿し、出勤できない利用者との距離を繋ぐことに力を注いでいました。事業再開後は利用者全員が「出勤したい」という意思を自ら示し、率先して仕事に従事しています。「(新型コロナウイルス感染症の)感染リスクは未だ拭えないものの、皆さんに確認した結果『出勤したい』という声が聞けたことは、正直とても嬉しかったです。私が話していると『仕事なので私語は禁止です』と利用者から注意を受けるほど、皆さん集中して仕事に従事していただいております」と伊藤会長。

ショコラボではできることを増やす〝長所伸展法〟を大切にしながらも、サポート体制を充実したうえで、閑散期には普段行わない作業もローテーションをしながら学ぶ仕組みを整えています。大切なのは「楽しい」と感覚的に思う環境づくり。スタッフ・利用者問わず、メンバー全員が自ら動けるように働きかけています。

厚生労働省によると、一般企業へと就職するのは障がい者総数のうち5%程度の中、昨年のショコラボの就労率は23%(8名)と高い数値を記録。さらに、就労一年後の定着率は通常50~70%程度と言われる中、8年経っても90%強という驚異の数字を誇っているのも、こうした自立性を育てる動きがあるからこそかも知れません。

集中して仕事に取り組む利用者
集中して仕事に取り組む利用者

さらなる事業発展に向けて

伊藤会長は2019年、カカオ豆から全過程を手作りを中心にチョコレート商品を製造する民間(一般)企業を設立し、屋号を「ショコラ房」としました。この道を志した一つのきっかけ〝障がい者の収入アップ〟を踏まえた上での展開で、ここでは障がい者10人が仕事に従事しています。ショコラボ、ショコラ房ともにBtoB(企業間取引)やBtoC(一般消費者取引)ではなく、事業に賛同いただけるBtoF(企業・団体・個人に限らず『Fan(ファン)』との取引)を目指しています。労働生産性や付加価値の提供、コロナ禍に対応した働き方の導入など、事業を展開していく中での課題は山積していますが、昔も今も変わらないのは、あらゆる人が共生するコミュニティ作りと物心両面の豊かさを感じられる仕組み作りへの思い。スタッフも利用者も〝どのようにしたら出来るのか〟本気の挑戦は止まりません。

ショコラ房のオシャレな店内
ショコラ房のオシャレな店内
あらゆる人の共生に奔走する一般社団法人AOH・㈱ショコラボの伊藤紀幸会長
あらゆる人の共生に奔走する一般社団法人AOH・㈱ショコラボの伊藤紀幸会長
取材先:一般社団法人AOH(ショコラボ)、株式会社ショコラボ(ショコラ房)
「あらゆる人々を平等に尊重し、障がい者・高齢者・健常者が共生するコミュニティを作り、関与する全ての人々が物心両面の豊かさを感じられる仕組みづくりで社会に貢献すること」の企業理念のもと、スイーツで夢と笑顔を届ける事業を展開しています。
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