Art
特集 Art vol.4 & Work
〝皆働社会〟への想い、
地域にひろがり、人々をつなぐ
HOTEL ARU KSP
日本理化学工業株式会社 キットパスアート事務局
神奈川県立川崎図書館
〝ともに生きる〟想いつながり、ホテルロビーでの開催が実現
キットパス皆画展
障がい者雇用のパイオニア企業による〝キットパス〟作品の展覧会「キットパス皆画(かいが)展」が、川崎市高津区のかながわサイエンスパーク(KSP)内のHOTEL ARU KSPのロビーと県立川崎図書館で開催されています(会期は2024年11月まで)。展示されているスペースには、プロの作家もアマチュアも、障がいの有無に関係なく、作品はまぜこぜに並んでいます。その作品は唯一無二のもの。ただひとつ共通しているのは「キットパス」という画材を使っている――ということだけ。この展覧会の実現には、川崎の企業同士の共感がありました。そして、この〝共感〟に、県立川崎図書館が呼応――。この素敵な展覧会が開催されているHOTEL ARU KSPのロビーで、開催実現の経緯、想い、これからの展望について、関係者に取材しました。
誰もが立ち寄りやすいホテルのロビーが展示会場
現在、HOTEL ARU KSP(川崎市高津区・かながわサイエンスパーク内)のロビーで開催されている展覧会「キットパス皆画展」(以後、皆画展)。この皆画展は障がい者雇用のパイオニア企業日本理化学工業株式会社が製造する画材〝キットパス〟作品の展覧会です。会場には約150点の作品がずらりと展示されています。この皆画展は、日本理化学工業がキットパスで描くこと、さらにその作品を楽しむことで「働くことで得られる幸せ」を考えるきっかけになればと、2017年にプロジェクトを立ち上げ、開催してきた展覧会をリニューアルしたものだそうです。展覧会に応募できるのは、障がいのあるなし、年齢、プロアマ関係なし。唯一共通しているのは〝キットパス〟を用いた作品であるということ。皆画展は今回で7回目。これまではどちらかというと限定された場所での開催だったそうです。今回のように、多くの人が集うホテルという開放的な場所での初めての開催が実現したのには、地元企業同士の日頃からの繋がりがありました。
「かながわサイエンスパークの交流会に大山社長がご登壇をされて、理化学工業さんのお話をしていただいたんです。その時にキットパスを知りまして。ホテルのお子様連れのお客様にも喜んでいただけるのではないかと、まずキットパスの取り扱いさせていただいたんです」と沼井総支配人。商品は子どもにも安心な素材で作られている、そして製造過程の想いなどもと知るにつれ、企業同士の交流も深まっていったようです。「今回の皆画展をやらせていただいて、来場されるお客様との会話も増えましたし、ホテルと同じ建物に入っている県立川崎図書館との共同展示も実現しました」。
民間企業同士の共感と行政の協力で実現したキットパス皆画展。そこには来場した多くの人々の共感も集まり、温かな空気が流れていました。「共生社会の実現に向けて、地域みんなが呼応していくことは大切だと思っています。県の機関が呼応するのは当たり前。できることを応援させていただきたいです」と今部館長は話してくれました。
展示作品の一覧はこちらから見ることができます
ひとつひとつの作品のメッセージから描き手の物語がうかがえます。なんと1歳3カ月のアーティストデビュー作品もあるんです。はじめてキャンバスに描いた作品だそうです。そのメッセージによると、『これは「何?」と聞くとコサックと何度も言います。トルコ語でコサックは「自由の民」。タイトルに決めました』とあります。――作品を鑑賞しながら、応募作品のメッセージも楽しんでみてはいかがでしょうか。
キットパスって?
キットパスは、窓やガラスなど平滑面になめらかに発色良く描け、濡れた布で消すことのできる絵具(えぐ)で、お米由来のライスワックスを主原料に、全て国内で1本1本丁寧に製造されています。『第33回 日本文具大賞』サステナブル部門で、2024年2月に発売した『キットパス バイ アーティスト(エクル)』が優秀賞に選ばれ、7月の表彰式では優秀賞ノミネートの15商品の中から1商品のみが受賞できるグランプリを獲得する快挙を成し遂げています。
※キットパスブランドとして同賞での受賞は、2009年の第18回日本文具大賞の機能部門で『キットパスきっず12色』のグランプリ受賞以来、2度目。
受賞に際しては「キットパスのもつ水で消去できる創作意欲を引き出す特長」、「障がいのあるアーティストの作品をパッケージに採用し社会的課題へ貢献」、「多様性と平等を重視した商品」との評価を得ています。
キットパスを作っているのは社員の7割が障がいを持つ会社
この〝皆画展〟の想いをつなぐ画材〝キットパス〟を製造する日本理化学工業株式会社。全従業員93人中67人の知的障がい者(うち重度の障がい者は25人)が働いている、チョーク/キットパス製造を主とした会社です。(2023年12月現在)
会社設立は昭和12年で、昭和34年に知的障がいのある学生の就労体験を受け入れたことがきっかけとなり、現在に至ります。当時障がい者多数雇用を目指したのは、禅寺のお坊さんから「人間の究極の幸せは、1つは愛されること、2つ目はほめられること、3つ目は人の役に立つこと、4つ目は人に必要とされることの4つです。福祉施設で大切にされ面倒をみてもらうことが幸せではなく、働いて役に立つ会社こそが人間を幸せにするのです」と教わったからでした。(同社ホームページより)
「社員の7割ぐらいが障がいがある。彼らがいてくれるから成り立っていくわけですけど、その彼らと一緒にやってきたことで、働くっていうことをすごく考えさせられています。働きたくてもその雇用される場はまだまだ少ない。社会では受け入れてもらえない状況はまだあるものですから、そういうことを少しでも、アートを通じて働くっていうことにも目を向けていただけたらと思っています」と大山社長は語ってくれました。
誰もが必要とされ、役に立って働ける社会「皆働社会」を目指して
誰も皆が働ける社会「皆働(かいどう)社会」をミッションにしている日本理化学工業。そのこころざしに地元企業が賛同し、共感し、呼応して開催されたのが今回のキットパス皆画展です。
「このミッションを世界へメッセージしていきたい。メッセージの最初の発信をここ川崎でKSPさんにご賛同いただけて川崎から発信できることが、とてもありがたいです」と大山社長。
「ホテルとしても、これからも共生社会やSDGsについて地元の皆さまに触れる機会を作っていきたいと思っています」と沼井総支配人。
日々の絆が繋がり、企業の想いにホテルが決断、開催が実現した今回の皆画展。これからも共生社会の実現へ向けての活動に注目があつまります。
最後に、皆画展会場に記されているコトバを…。
人の幸福とは、
人に愛されること
人にほめられること
人の役に立つこと
人に必要とされること。
- 取材先:HOTEL ARU KSP 日本理化学工業株式会社 神奈川県立川崎図書館
- ※HOTEL ARU KSP と県立川崎図書館でのキットパス皆画展は、11月までの会期です。